介護の現場で働く看護師の実情。
実は私は看護師です。
先日までの約10年、老人保健施設で働いていました(以下、老健)。
よく、新聞などでは介護職の待遇について議論されていますが、介護施設で働く看護師の待遇については議論されないんですね。
なのでちょっとここに書かせてもらおうと思います。
私が働いていた施設は、夜間、利用者80人に対して看護師1人の体制でした。
老健とクリニック、グループホーム、有料老人ホーム、ケアハウスが同じ敷地内に建設されていました。
看護師は、勤務する老健で利用者が急変を起こせばもちろん1人で対応しなければなりません。私のいた施設は介護保険の改正で経営が厳しくなったため(実際はわかりませんが)、終末期を看取ることでもらえるターミナル加算や、早期の在宅復帰でもらえる加算など、様々な対応をすることに。
通常の業務に加えて、いつお亡くなりになるかわからない危篤状態の利用者の看護をしなければなりませんでした。そのような方が1人ではないのです。多いときは4〜5人。
そして、在宅復帰加算をもらうために、私のいた施設では人工関節置換術後の方を多く受け入れていました。
高齢の方は転倒しやすく、その結果骨折して寝たきりになる方が多いのはご存知と思います。
骨折の好発部位は大腿部、その結果、人工関節置換術という流れです。
施設の高齢者にはほぼ100%認知症があり、危ないことがわからないので危険な行動もへっちゃらです。手術したばかりで再び転倒なんてもってのほか!ってことで、そういう利用者には体動センサーが取り付けられます。
病院なら拘束できるけど、施設では拘束は禁止されてるのでそうするしかないのです。
そのセンサーが、一晩中鳴るんですよー。
同時多発的に鳴ることもあって。
もちろん、一緒に夜勤する介護さんもいるんですけどね、介護さんには介護さんで仕事もあるわけで。
こういう施設で優先されるのはまず、おしめ交換なんです。
だから、介護さんがおしめ交換に行ってる間のセンサー対応は看護師。
というか、介護さんの数も足りてない。80人の利用者に対して夜間は3人の配置でした。
夜間だけでも看護師は看護の業務に専念できればいいのですが、介護さんが足りないから看護師も実質、介護としてのマンパワーに含まれます。じゃないと業務がこなせませんから。
夜間はセンサーが鳴るたびに走り、3時間毎に1人あたり20人のおしめ交換をし、トイレに行きたいとナースコールがあれば駆けつけ、記録の整理をしながらターミナルの方のバイタルチェック、次の経管栄養の準備や注射や点滴の用意、朝服用する薬の用意…。
そして私のいた施設では、敷地内の他の施設で急変があれば老健の看護師が対応していました。
さらに、クリニックにやってくる夜間の救急外来のお手伝いも。
当直の医師は名前ばかりで、実は自宅待機。
急変があれば電話で呼ぶんですが、そういう場合はご家族にも連絡が必要です。ほとんどのご家族が、最期のときには立ち会いたいと言われます。でも、そのタイミングを見計らうのがとても難しい。うっかり早すぎる連絡をしてしまったり、危ないと思って連絡したけど持ち直した、とか、うっかり医師よりも早くご家族が到着してしまったり、医師が到着するより早くお亡くなりになったり。
そういうときのご家族からの非難は、もちろん看護師が受けます。
みんな医師には面と向かって文句言わないですからね。看護師には言いやすいんでしょう。
そしてもしお亡くなりになったら、エンゼルケアを1人ですることになります。介護さんには別の仕事があるので、必然的に。お体を綺麗にしてから服を着せ、髪を整え、死化粧を施します。ほとんどのご家族は和服(着物)を持ってこられるので、それを1人で四苦八苦しながら着せて差し上げるのです。帯を巻くときなんて、泣きそうになります。他の業務で走り回ってヘトヘト、しかも昼間なら2〜3人であたるエンゼルケアを1人でしなきゃいけない。よいしょ、よいしょとご遺体を左右に傾けながら、不謹慎ですが、あぁ、もう疲れた…いや、でも早くしないと他の人の栄養が間に合わない!なんて考えるわけです。
こんな仕事を、夕方から翌日の朝まで1人でこなすんです。私のいた施設は、16:30〜9:30勤務でした。
そんな職場で働きたい看護師って、そうそういないですよ。
介護さんには、処遇改善交付金というものが支給されるのに、看護師にはありません。
看護師は高給と言われますが、施設の看護師の給料は介護さんとほとんど変わりません。私のいた施設では、基本給で2〜3万、夜勤手当が4千円の差でした。
看護師の処遇だって改善しろよ!と思います。
私が看護師になったばかりの頃、理想だったのは患者さんが元気になって退院していかれるのを見ることでした。
でも実際は、高齢者のオシメ交換や、認知症の方の介護の比率が高いのです。
なんのために看護師になったんだろう、介護をするためではなかったはず…
まぁ、高齢化が進んでいて、どこの病院も患者さんは高齢者ばかりだから仕方ないのかもしれませんが。
看護師不足と言われていますが、なぜ不足しているのか、どこかで会議してる偉い人にしっかり考えていただきたいですね。
ちなみに私は、子供が小学校を卒業する年になり、その時初めてほとんど子供の休日に一緒に過ごしたことがないことに気付き、仕事を辞めました。
あっという間に過ぎていく子供との時間を、使命感の犠牲にしてしまった。
まだ終わったわけではないので、これからの時間は子供と共に過ごしたいと思っています。
看護師の仕事が、自分の健康や家族との時間を犠牲にしなくてもよいものに変わっていくことを願っています。